東京高等裁判所 昭和37年(ネ)3156号 判決
右認定事実からすると、控訴人は被控訴人が物件の所有者たる木下からの売却仲介依頼に基いてなした新聞広告をみて被控訴人に連絡し、その使用人の案内によつて本件宅地建物の下見をしたが、被控訴人の提示する売買の条件殊に手附の金額に難色があつて売買契約の成立にいたらないうちに他の仲介者から同一物件につきさらに有利な条件を以て仲介の申込をうけたので、結局、被控訴人の仲介によつてではなく、太田の仲介によつて所有者との間に本件物件の売買契約を締結したことが明かである。
一般に不動産の買受希望者が売り物に出された同一物件につき互に競争的立場においてその売買の仲介を取扱う複数の不動産取引業者に接触し、物件を下見した上代金額その他の買受条件につき交渉したに止る場合には、そのいずれが最も自己の意向に近い有利な条件を提示するかによつて、仲介者を選択することは、それが信義則に反しないかぎり自由になしうるものというべきところ、前記認定のとおり被控訴人と訴外太田武男とでは、控訴人が手許資金の都合上特に重視した売買手附金の額だけでなく、仲介手数料についても格段の相違があつて、被控訴人の提示する条件は買手たる控訴人の受け入れ難いものであつたところから、控訴人が被控訴人の媒介を利用せず、控訴人にとつてより有利な太田の媒介の下に、売主との間に売買契約を成立せしめたのは、買手として誠に当然のこととせざるを得ない。そしてこの間控訴人側に別段信義に反する行為があつたと認むべき資料はないので、右の結果被控訴人が売買仲介の関係から外され、不利益をうけることになつても、それは自己の努力によつて他の仲介者と比べて買手により有利な条件の提供をなしえなかつた廉によるものとして甘受すべきものである。
(奥野 野本 海老塚)